歌曲王シューベルト(1797-1828)が残した、最高の歌曲集の一つ「冬の旅」。松原友さんのテノールリサイタルでの演目でした。ピアノは小林道夫氏。10年前に交わされた約束の実現でした。
「10年経って君が、シューベルトが『冬の旅』を作った年齢になったら一緒に演奏しよう。」
1月31日のシューベルトの誕生日に合わせて行われたリサイタル。師弟の絆、信頼が、なんとも美しい音楽となってホールに響きました。
冬の旅を初めて全曲聞いたのは、ある番組でボストリッジが歌ったものでした。クラシックの名曲に興味が湧き、常に何かを音楽から得ようと思っていた学生時代、よくクラシック番組を見ていました。その「冬の旅」は背景が真っ白な場所で、普通の演奏会とは違う演出の中歌われていました。当時の私には難しすぎたようで、なんだかよくわからなかったという気持ちだけが残りました。
あれから数年が経ち、私もその年に近づいてきました。今の自分にとって、「冬の旅」は非常に刺激的でした。冷たい足音のように、ピアノが音楽を刻み始めた瞬間から、ハーディガーディの空虚なオスティナートで幕を閉じるまで。
すばらしい10年を歩んでこられたのだなと、感動とともに、自分の10年をふり返りました。過ぎたものは戻らないけれど、これからの10年、いやそう欲張らず、まずはこの一日、私も音楽と向かい合いたいと思いました。